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遺伝学的・微生物学的に統御された 健康なサル類の管理システムの構築 繁殖育成効率の向上を目指した技術の確立と 生殖補助技術の開発に関する研究 疾患モデルの開発および 解析に関する研究
繁殖育成効率の向上を目指した技術の確立と
生殖補助技術の開発に関する研究
健康なサル類を維持管理する上で、繁殖育成効率を向上させることは、コロニー維持、研究利用などの規模に直接関わるため極めて重要な課題である。そのために、当センターの設立から現在に至るまで生殖生理学的研究が継続して実施されており、多くの基礎データが蓄積されてきた。これらのデータは、繁殖コロニーに適したサルの選定、繁殖方法の選択、胎児発育のモニタリング、分娩・育成時の事故防止などに反映されている。生殖生理学的研究により得られたデータは、今後の繁殖育成方法の方向性を決める重要な指針を示すものである。また、生殖補助技術をサル類に適用していくことは、繁殖効率の向上に結びつけるという目的だけではなく、サル類由来の研究資源の保存および供給システムを構築するために必須と考えられる。体外受精、顕微授精などの操作により受精卵を作出して、胚移植により産児を得ることは発生工学の基本となる技術である。その開発研究の流れの中で精子や卵の凍結保存に関する研究も行っている。また、胚性幹細胞の樹立と共に遺伝子治療、細胞治療、再生医療等につながる技術の開発研究を試みている。さらに、疾患モデルの開発や医薬品評価などを目的とした研究に有用なクローンザルあるいは遺伝子操作ザルを得るための試みも重要な課題となっている。

繁殖・育成関連技術
1対1同居交配
主な交配方式は、メスの排卵時期にあわせてオスを3日間同居させる方法である。さらに、月経周期が不規則な個体に対しては、隔日でオスと同居させる方法や長期間オスと同居させる交配方法を行っている。いずれの方法もメスとオスとを1対1で同居させることが基本となっており、生まれる個体の親が明確であるという特徴を有している。写真は同居しているカニクイザルのペアである。

早期妊娠診断
確実に妊娠を判定することができる技術として二つの方法を確立している。超音波診断法では交配後5週目以降の診断が可能である。胎盤から放出されるβ-CGの血中濃度を測定することにより交配後3〜4週目での早期診断も可能となった。また、E2の濃度を測定することで正確に排卵日を把握することができる。すなわち、エストラジオール(E2)測定を併用することで妊娠日齢が明確な胎児を得ることができる。下の写真は右から超音波診断装置により妊娠診断を行っているところと受精後36日目の胎児である。


ほ育と育成
母ザル自身によるほ育は、人手を必要とせず子ザルの健康維持を母ザルに託すものである。しかし、不慮の事故、母ザルのほ育拒否などが認められたときには積極的に人工ほ育を実施している。人工ほ育においても母ザルにほ育されたサルとほとんど同じ体重増加の推移を示すことを確認している。人工ほ育は清潔な環境下で行われ、SPFザル作出の手段としても有用である。離乳は生後6ヶ月ころに行い、育成期間にはほぼ同体重の2頭を一つのケージで飼育している。下の写真は左から母ザルによるほ育、人工ほ育で授乳中の個体、そして育成中の2頭のカニクイザルである。

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生殖補助技術の開発

サル類の生殖補助技術は配偶子・受精卵等の体外操作を経ることで、遺伝学的および微生物学的に統御されたコロニーの維持に効果的な技術である。さらにサル類由来の研究資源の保存、提供、またそれらの価値を向上させるための技術として期待されている。しかし、カニクイザルでの通常1個の排卵数は、体外での各種検討を制限する。ホルモン処理は一度に多数の卵の採取を可能にし、体外受精や顕微授精などに利用される。ここで作出した受精卵を母体内に移植することで産児が得られる。このような基本となる生殖補助技術に関する技術は他に、凍結保存や未成熟配偶子の成熟培養などが挙げられる。配偶子や受精卵などの凍結保存は、実験を随時可能にするだけでなく、重篤な感染症の蔓延時のバックアップにもなる。また、死亡ザルなどから得られる未成熟な配偶子を成熟させる技術も新たな個体を得るうえで重要である。さらに、遺伝子操作ザルの作出やクローンザルの作出も重要な検討項目である。特に体細胞からのクローンザルは、相同な遺伝子を持つ複数の個体が作出できることから様々な研究への有用性が期待される。加えて、ヒトと同じ霊長類であることは、サルES細胞を用いた再生医療などの前臨床的研究を可能にする。ヒトへの応用に向けた効果や安全性などの検討を目指した生殖補助技術の開発が重要な課題となっている。


1)卵胞からの卵子採取 2)顕微授精
ホルモン処理を施すことで多数の卵胞内卵子の採取が可能となる。写真はホルモン投与後発育した卵胞に針を穿刺して卵胞液と共に成熟卵を吸引採取しているところである。 受精卵を人為的に体外で作出する方法の一つである。写真は微細なガラスピペットを用いて未受精卵の細胞質中に精子を注入している所である。
3)ES細胞 4)顕微授精由来の胚盤胞
写真はマウス胎児線維芽細胞上に形成されたカニクイザルES細胞のコロニーである。この細胞株は胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたものであり、胚性幹細胞(ES細胞:Embryonic stem cells)とも言われ、あらゆる細胞に分化する能力を有している。 受精卵の一形態であり、内部細胞塊と栄養外胚葉細胞から構成されている。内側の細胞密集部分が内部細胞塊であり個体へ発生する。写真は顕微授精卵の体外培養により発生した胚盤胞で、細胞が密集した部分が内部細胞塊である。
5)体外受精由来の産児
写真は体外受精、胚移植により得られた産児である。体外受精由来の受精卵を仮親の卵管に移植し着床を確認。その後正常に妊娠が維持され帝王切開により摘出された。

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生殖生理学的解析

生理学的年齢の比較
横軸にヒト(日本婦人)の、縦軸にカニクイザル(メス)の年齢を取り、各種生理的指標のそれぞれの発現年齢を示したグラフ。初潮年齢は5.5倍、閉経年齢は2.5倍のひらきがある。出生を原点にし、閉経年齢と結んだ破線よりも下に多くの指標が位置する。すなわちカニクイザルの成長は相対的にヒトよりも早いことを示している。


排卵日の分布
下のグラフはカニクイザルの若齢群と高齢群の排卵日を示している。卵胞から分泌されるE2の血中濃度が急激に低下したときに排卵が起きたと考えられる。カニクイザルの平均排卵日は、若齢群および高齢群でそれぞれ月経初日から13.3と12.8日目であり大きな差は見られない。しかし、高齢群においては若齢群よりも全体的に排卵日にバラツキが認められる。

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