我々のグループは人に近縁なサル類を対象として、ヒトの様々な疾患に対する新規治療法開発、安全性試験、病態生理、病態機序の解明を目指した研究を行っています。現在は主に循環器疾患、画像診断、再生医療をテーマとした研究を行い、さらに産官学連携した各種研究機関との積極的な共同研究も推進しています。
循環器疾患、特に心不全、虚血性心疾患、加齢性弁膜疾患は世界各国で疫学上大きな問題となってきており、その病態解明、新規治療法開発研究は極めて重要になってきています。実験用サル類は基礎医学分野で重要な位置をしめている実験動物であり、ヒトへの外挿を目的とした医薬品の安全性・有効性・毒性試験だけではなく、各種疾患モデル動物として人類に多大な貢献をしています。ところが一方でサル類自体の循環器疾患に関する報告は実はほとんどありません。また、近年、機能・生理学・形態学的にもヒトに近似で長命なサル類を用いた循環器疾患研究が増加する傾向にあります。そこで我々は当センターのサル繁殖コロニーを対象に、血液検査、超音波診断、MRI、などの各種非侵襲的な検査を縦断的に行い、循環器疾患の抽出を試みています。これまでの検査を通じて弁膜症、心室中隔欠損症、右室二腔症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、糖尿病性心筋症などの多様な循環器疾患症例をすでに確認しており、それら疾患における病態機序の解明、新規治療・予防法の開発を目指して研究を行っています。サル類における自然発生の循環器疾患を研究することで、循環器のみならず医科学研究全体への貢献が大いに期待されます。
我々は霊長類の検査に特化した3TのMRIや心エコー図検査等が可能な超音波診断装置、その他C-armレントゲン装置や心電図装置等を有し、それらを用いた独自の検査手法を樹立し、循環器を中心とした画像診断研究も展開しております。さらに、その研究の過程で、サルの血液、心電図、心エコー図等の基準値や検査手法を多数樹立し、多くの医科学研究にも貢献しております。それらのデータは繁殖コロニー内におけるサル類の飼育管理や健康維持に役立てているのみならず、循環器、脳神経、遺伝子治療、再生医療等の各種研究の基礎を支える貴重な情報として提供されております。また、昨今盛んな再生医療の安全性や有効性を検証するために、移植細胞を磁性体マーカーでマーキングしてMRIでその細胞動態を追跡する事が可能な検査手法も樹立し、各種研究に有効利用しております。さらには世界で始めて霊長類の虚血性心疾患においてCT-SPECTイメージングにも成功を収めるなど、霊長類における画像診断で世界トップクラスの成果をあげております。
造血幹細胞は移植治療の普及に伴って既に医療現場で広く使われるようになった細胞です。さらに、昨今はES細胞やiPS細胞等の新たな幹細胞研究が非常に盛んとなり、ヒトの医療へ応用されるなど再生医療研究は新たな局面を迎えております。しかしながら、マウスなどその他の小型動物における研究ではヒトの幹細胞の動態や制御が正確に反映されない可能性も示唆されています。例えばマウスが一生に作る量の赤血球を、ヒトは一日で作ってしまうと言うことがわかっています。さらにマウスの場合、造血幹細胞の遺伝子標識研究から、造血系の再構築は極めて少数の幹細胞から由来することが報告されています。この様にヒトとマウスの細胞動態は大きく違うことがわかっております。また一方、ヒトの伴性重傷複合免疫不全症患者に対する造血幹細胞遺伝子治療では白血病を発症したという副作用も報告されています。これらの事実を踏まえ、各種幹細胞を用いた再生医療のために、ヒトと同様の臓器形態、病態生理、細胞動態を有する霊長類のモデルを用いることが強く求められています。それらの事実を反映し、現在我々はカニクイザルを用いた造血や心臓、腎臓、肝臓、膵臓の病態モデル系を樹立し、遺伝子治療や再生医療といった新規治療法開発研究、安全性試験、前臨床試験を進めております。それら得られた知見を元に、再生医療、造血幹細胞生物学、移植免疫学の基礎から応用への架け橋を担うというアプローチも試みています。
論文、学会発表、経歴等は下記のresearchmapをご参照下さい。
https://researchmap.jp/ageyama
我々のグループでは大学等研究機関から多数の大学院生等の研修生や協力・客員研究員を受入れ、上記の研究分野で多くの業績をあげております。 一緒に研究を行ってみたい方、研究に興味のある方はお気軽にご連絡下さい。