研究関連

研究実施のための基本原則

遺伝子治療、高次脳神経、長寿科学研究などの非感染実験に対応した施設である。動物実験が行われる動物飼育区域には、fMRI 装置、レントゲン撮影装置、超音波診断装置、解剖台、手術室など広範な医科学研究に対応した設備が設置されている。また、サル類に投与する細胞、DNA、試薬などを準備することが可能な実験室区域も付属している。

 サル類を用いた研究に際しての3R+1R (4R) の提言

当センターにおけるサル類を用いたすべての研究は、1964年のヘルシンキ宣言(医学研究の倫理的原則)に基づく。すなわち、人間の尊厳を守るために医療・医薬品の開発は動物実験結果を十分に参考にして行われるべきだという基本原則である。また、動物実験を遂行するにあたり、社会的倫理を尊重すると同時に研究者は一般社会に対する説明責任を持つことを心懸けている。一方、研究者の独創性を失うことなく、3R提言(Reduction:使用動物数の削減、Replacement:代替法の利用、Refinement:実験の洗練、苦痛の軽減)、さらに Responsibility(研究者の責任)を加えた「4R」を十分に考慮し、国民の健康に貢献する成果の創出を目指している。

サル類を用いる実験原則

本原則は、当センターにおいてサル類を実験に使用するにあたって、サル類を用いる研究の必要性と動物福祉への配慮に関する基本姿勢を明確にするために定めている。

  • 研究者はサル類が貴重な実験動物であることを十分に認識する。
  • 実験に使用するサル類は原則として実験用に繁殖育成された個体に限定する。
  • サル類を用いる実験は、サル類を用いることによってのみ、その目的が達成されると判断される場合に限定する。
  • サル類を用いる実験計画作成にあたっては、使用動物数を必要最少数とし、実験中の生理的および心理的苦痛を軽減するための最大限の努力をする。
  • 上記原則の遵守を確認するため、動物実験委員会はサル類を用いる動物実験計画書に対して、実験目的、目的達成のための方法、実験処置、飼育管理を含めた取扱いの妥当性などについて必要かつ十分な審査を行う。

実験の実施

当センターでは各種実験に関連した講習会を開催しており、全ての研究者および研究支援者等は必要な項目を受講しなければならない。各種講習会は定期的な受講が義務化されており、常に正しい動物実験倫理観の維持とともに事故の回避および対策について配慮された上でサル類を用いた実験が行われている。
また、実験を行う前に各委員会において、各研究課題の適切性・必要性・動物倫理などが審査され、承認された課題だけが実験を許可されている。

センターのカニクイザルの特性

 ヒトとの類似性および特徴

カニクイザルはヒトと同じ霊長類に属する実験動物である。特に高次脳機能を有すること、長寿であること、単胎妊娠であること、月経があることなど他の実験動物種が持たない、ヒトに近い特徴を持つ。また、近縁なアカゲザルやニホンザルは季節繁殖性であるが、カニクイザルは通年繁殖性であるという点でもヒトに良く似た生理的特性を示す。このようにサル類はヒトと似た特徴を持つことから、再生医療、脳神経、長寿、行動、臓器移植、感染症、生殖など様々な医科学・感染症研究に利用されている。

微生物統御

研究に障害を与えるような特定病原体を持たない(Specific-PathogenFree:SPF)サルが研究には不可欠である。サル類はヒトに近縁であるため、ヒトとサルのどちらにも同じ病気を引き起こす人獣共通感染症が多く存在する。一方で、ヒトとサルの共通の祖先が持っていたウイルスが固有の適応を遂げてきた例もある。Bウイルスはサル類では重篤な症状を引き起こさないが、ヒトに感染した場合は致死的となる。逆に、SVVはヒトには症状を起こさないが初感染ザルには致死的となる。また、SRVはサルで免疫不全を引き起こす場合があり、エイズ研究やワクチンなどの免疫研究等においては問題となる。当センターでは、このようにヒトに危険な病原体やサルコロニーの維持に弊害となる病原体を排除している。さらに、コロニーからの排除に成功しているが、ヒトが持ち込む可能性がある結核菌などについても定期的な検査を実施して、SPFコロニーが維持されていることをモニタリングしている。

SPF対象特定病原体

赤痢菌、サルモネラ、結核菌麻疹ウイルス、Bウイルス、サル水痘ウイルス(SVV)、サルエイズウイルス、サルT細胞白血病ウイルス、サルレトロウイルス(SRV)、サルエプスタイン・バーウィルス、サルサイトメガロウイルス、サルフォーミーウイルス

遺伝的統御

当センターのカニクイザルは生息地域(フィリピン・マレーシア・インドネシア)間毎の繁殖および近親での交雑が無いような家系管理を行い、遺伝的な差異を維持するように多世代にわたる計画的な系統の維持が行われている。このような遺伝学的に考慮された繁殖のもとで構築されたコロニーは遺伝性疾患の解析に役立つ。元の生息地域の違いによって、一部の病原体に対する感受性を示す遺伝子の保有率に違いがあることも見出されている。遺伝性疾患としては黄斑変性・心疾患等の家系解析研究が行われている。また、ヒト疾患において特定のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)タイプを持つヒトが疾病になりやすいことが知られているが、サルにもMHCが存在しヒトと相同性がある。現在MHCタイプの同定が進められており、再生医療研究だけでなく、エイズ等の感染症研究に有用なサルを計画的に維持管理できるような研究も進められている。

研究例

自然発生疾患研究

当センターではカニクイザルを自家繁殖し、全ての個体に対して健康診断を行っている。その過程等で自然発生疾患が確認され、それらの中には家族性に発症する例も存在している。疾患の例として、黄斑変性疾患、拡張型心筋症、子宮内膜症、老人斑形成、高脂血症、糖尿病などが挙げられ、それらの解析や治療などに関する研究が行われている。カニクイザルは長寿な実験動物であるという特性から、ヒトに換算すると60才以上に相当するような20才以上の高齢個体はアルツハイマー病などの長寿科学研究にも利用されている。また、過肥個体の中に高脂血症や糖尿病を発症している個体も見られ、ヒトの生活習慣病モデルとして期待されている。これらのように自然発生的に確認される疾患の抽出や解析は、ヒト疾患研究に大いに貢献している。

黄斑変性疾患
拡張型心筋症
子宮内膜症
老人斑
過肥個体

疾患モデル研究

自然に認められる疾患例を上に挙げたが、特定の疾患について人為的な操作を施すことで積極的なモデル開発も行っている。ヒト疾患は希少なものも含め非常に多いため、積極的な疾患モデルの作出もその治療法開発に無くてはならない。この視点から、結核、プリオン、インフルエンザ、エイズなどの感染症研究、あるいは再生医療、遺伝子治療、脳・神経疾患治療などの医科学研究が広範囲に行われている。また、自家繁殖を行っている特徴を生かして、妊娠日齢が明確な妊娠個体あるいは胎児を使用した研究も行われている。脳・神経疾患や遺伝子治療あるいはプリオン病などの脳機能・運動機能の研究等に必要な行動解析技術も確立されている。さらに、発生工学研究を応用した多能性幹細胞の樹立や個体の作出による新規リソースの開発研究も行われている。カニクイザル以外ではアカゲザル、アフリカミドリザルや以前は霊長類に分類されていたツパイなども各種研究に利用されている。

感染症研究
胎児・妊娠個体の利用
脳機能 ・ 行動解析
発生工学研究
ツパイ